虐待につながる「不適切ケア」
日常のケアを振り返り、適切かどうか考えてみましょう
日々の介護に潜む「不適切ケア」
「虐待をしていませんか」と問われたら、職員の多くは「そんなことしていません!」と答えるでしょう。では「不適切ケア」はどうでしょうか?
虐待とは、意図的かそうでないかにかかわりなく、相手の人権を侵害し、その生命・健康・生活を
損なうことです。一方、不適切ケアは、虐待とは言い切れないものの適切ではない、つまり虐待とのグレーゾーンにあるケアのこと。配慮が不足することで相手に嫌な感情を残してしまいます。日常のなかで無意識に行われることが多く、介護者がよかれと思って行ってしまうこともあります。
この不適切ケアは、いわば“虐待の芽”のようなもの。放っておくと、虐待につながりかねません。知らず知らずのうちに不適切ケアを行っていないか、日々振り返りをすることが大切になります。そのケアが「本当に相手に配慮したものであるか」を念頭に、自分の都合や思いが先に立っていないか、利用者の気持ちや体の状況が理解できているか、自分の行動や態度、言葉づかいが適切であ
るかを、しっかりと見直していきましょう。
見つけた不適切ケアは皆で話し合い、改善を
虐待や不適切ケアの背景に、職場環境があることは否めません。業務の忙しさや人員不足から、効率優先になり、利用者の気持ちに配慮する余裕がなくなると虐待や不適切ケアに結びついてしまいます。
虐待や不適切ケアは職場全体の問題です。組織として、何が原因であるかを検証し、ケア全般を見直し、職場環境も含めた改善を図ることが必要になります。そのためには、日常的に自分たちのケアの問題点を話し合える場を設けることが重要。「もしかしたら、これって……」と思った時に、みんなで話し合い、全員で共有していくことが、“芽”を摘み取っていくことにつながります。
本誌では具体的に振り返りのポイントを解説しています。
上川病院総師長在職中から「縛らない看護」に取り組む。以来、拘束廃止、虐待予防に携わり続け、「抑制廃止福岡宣言」(1998年)、「九州宣言」(1999年)のきっかけをつくる。2009年より現職。拘束廃止研究所所長。NPO法人シルバー総合研究所理事。
文/高野千春 イラスト/尾代ゆうこ