うまくいかないのはなぜ?
職員を疑う認知症利用者への対応【前編】
Q 財布を持ってきていないのに、かばんの中を必死で探し、職員を疑う利用者がいます。どう対処したらよいでしょうか?
デイサービスには財布を持ってきていないAさん。しかし、施設に着くなり、かばんの中を探し、「財布がない! あなたが盗ったの?」とスタッフに詰め寄るので、いつも困っています。
A 本人にとって、あるはずの物がないのは不安。不安が高じると猜疑心を招いてしまいます。できる範囲で、柔軟な対策を考えていきましょう。
財布がなくなったと思ったAさんが不安になるのは当然のこと。周囲が取り合わないと、結果的に介護者への不信感につながります。まずは不安を取り除くことを考えましょう。
対応のポイント
財布やかばんなど、日常生活で常に持っている物を持たずにいると、だれでも不安を感じます。認知症の人は、記憶障害でそれらがある場所を忘れてしまうため、「手元にない=なくなった」となり、不安は一層強くなります。その思いが続くと猜疑心を招き、「盗られた」と思うようになってしまうのです(物盗られ妄想)。これが周囲に対する不信感につながります。そうならないために、不安を和らげる対応を考えていきましょう。
納得し、安心してもらうための有効な対応としては、財布を持ってきていない場合でも、まず一緒に探し、ここにはないことを確認したうえで家族に電話を入れて、家に財布があることを確認します。財布を持ってきている場合なら見つかるまで一緒に探しましょう。
また、財布や現金の持ち込みを禁止している施設であっても、本人のこだわりが強い場合には財布に小銭を入れて携帯してもらうなど、柔軟な対応も必要です。
『レクリエ2018 11・12月』では介護者と利用者双方の気持ちについて深く掘り下げています。
東京都健康長寿医療センター研究所研究員、看護師、保健師。介護施設や在宅での認知症ケアを研究。著書に『認知症の方の想いを探る~認知症症状を関係性から読み解く~』など。
文/高野千春 イラスト/田上千晶