事例で学ぶ認知症ケア
認知症ケアにおける暴言・暴力への対応方法とは
暴言・暴力は、認知症の人によくみられる症状の一つですが、介護者にとっては対応に困るケースでもあります。しかし、その原因を検証し対応していくことで、本人にとってよりよい環境づくりをすることが可能です。今回は、その人個人を尊重し、暴言・暴力を減らすことができた例を紹介しましょう。
なぜ暴言・暴力が現れるのか原因を探ることが大切です
認知症の人にみられる暴言・暴力には、主に疾患によってもたらされる脳の機能障害によるものと、行動・心理症状(BPSD)として現れるものがあります。これらに発熱や水分不足などの「身体的誘因」、これまでできていたことができなくなることや社会から置いていかれることへの不安や焦りからくる「心理・社会的誘因」、自分の居場所が認識できなくなる「環境的誘因」などが加わり、引き起こされるのです。
また、人間関係が誘因となることもあります。介護者が現場で直面する利用者の暴言・暴力には何らかの要因がありますが、それは往々にして自分たちの行動や言葉、表情、態度のなかに潜んでいることが少なくありません。無意識のうちに命令口調になっていたり、利用者の意思や気持ちを大切にできていなかったり……。利用者は意味もなく怒ったり、手を上げたりしているわけではなく、そこには必ず理由があるのです。
暴言・暴力に出合った際には、その人を「怒りっぽい性格」で片づけず、「いつ」「どのような状況で」「何かきっかけがあったか」などについて一つひとつ検証していくことが大切です。その積み重ねが、利用者に対する理解につながり、その人を尊重したかかわりにも結びつきます。またその結果、暴言・暴力が減るだけでなく、利用者本人が心地よく過ごせる時間を増やすことにもなります。
暴言・暴力がひどくなるかかわり方の例
[抑え込もうとする]
利用者が急に大声を出したり、乱暴な態度をとったりすると、介護者は「落ち着いてください!」と抑え込もうとします。数人で取り囲む、大声で注意するなどの行動が、利用者に恐怖を与え、暴力の激しさが増すことになります。
本誌では、生活歴やシーンを想定した事例やワークシートを紹介しています。
社会福祉法人浴風会本部浴風会ケアスクール校長、日本大学歯学部医療人間科学教室 非常勤講師、社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員、アドバンスソーシャルワーカー。障害者福祉の地域実践を経て、老人福祉施設の立ち上げ・運営に30年余り携わる。著書に『認知症ケアの真髄』などがある。
文/高野千春 イラスト/ホンマヨウヘイ