事例で学ぶ認知症ケア
怒鳴って職員を突き飛ばす利用者への対応例
スタッフはこう考えました
●意思を確かめることなく体操への参加を促したことを、無理にやらされる(強制)と感じたのではないか。
●運動が苦手なことを知られたくないのではないか。
●体に触れられ、驚いて恐怖や不安を感じたのではないか。
●自分をまだ現役の教師だと思っていて、訪れた視察先で新人の教師に指図されたように感じ、不愉快になったのではないか。
●自分の嗜好に合った落ち着ける場所がなかったため、施設に居づらいと感じたのではないか。
●文字や書道にかかわることであれば、興味を持つのではないか。
この考えのもと、こんな対応をしてみました
無理に集団行動に誘わず、得意な書道の腕を発揮してもらった
Kさんを、集団でのアクティビティには無理に誘わず、月に2回の書道教室の時間に先生として参加者の作品の丸つけや手直しをしてもらうようにしました。ボランティアの先生にも事情を伝え、みんなの前でほめてもらうようお願いしました。すると次第にほかの参加者となじめるようになり、教室がKさん自身にとって居心地のよい場所になってきたようでした。
なじみのある雰囲気のコーナーを設け、元教師であることを意識して声かけをした
ハード面とソフト面からかかわり方の見直しを行いました。ハード面としては、ホールの一角にKさんが落ち着ける居場所を設けました。教師時代になじんでいたような机の小さめのものを調達し、その上に本を並べてブックコーナーに。ソフト面では、教師であったKさんの生活歴などの情報を本人や家族から集め、ほかの職員と情報を共有するようにしました。そして、入浴時などリラックスして話ができる時間に、生活歴を参考にその話題に触れるようにしました。
本誌では事例をもとにうまくいったポイントや詳しい解説を掲載しています。
社会福祉法人浴風会本部浴風会ケアスクール校長、日本大学歯学部医療人間科学教室 非常勤講師、社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員、アドバンスソーシャルワーカー。障害者福祉の地域実践を経て、老人福祉施設の立ち上げ・運営に30年余り携わる。著書に『認知症ケアの真髄』などがある。
文/高野千春 イラスト/ホンマヨウヘイ