「思い」があるだけでは伝わらない
接遇のポイント「表情やしぐさから伝わるメッセージ」
私たちはコミュニケーションの方法として、言葉にたよりがちですが、利用者の思いに寄り添うには、言葉以外のコミュニケーションも大切です。日常のコミュニケーションにおいて、言語が占めるのはわずか2~3割といわれています。残りは、顔の表情や身振り、しぐさ、話し方など、言語以外が占めています。
たとえ温かみのある言葉を使ったとしても、言い方が事務的だったり、仏頂面(ぶっちょうづら)だったり、粗雑(そざつ)な荒々しい振る舞いだったりすると、言葉だけが表面的に響き、思いは届きにくいもの。
例えば、配膳(はいぜん)のとき。「どうぞ、ゆっくりお召し上がりください」と矢継ぎ早に言われても、白々(しらじら)しく聞こえてしまいます。ところが、ゆっくりと利用者の目を見て伝えるだけで、言葉に実感が伴います。「どうぞ」の後に数秒の間を置くだけで、印象は変わりますが、早口が自分のクセになっていると、なかなか気づけません。こうしたクセが、思いとは反対のメッセージを相手に伝え、マイナスの影響を与えることがあります。
利用者とうまく関われないと悩んだときは、原因を相手に探すのではなく、「私だからなのかな?」と、自分と向き合うことが大切です。自分のクセに気づけば、改善策も見つけやすくなります。ただし、一人ではなかなか気づきにくいので、周りの人のやり方と比べることで自覚できるようになります。クセを意識し、修正しようとすることが、介護力のレベルアップにもつながります。次ページの事例を通して、質の高い接遇を行うためのコツをつかみましょう。
昭和大学保健医療学部兼任講師。介護の場におけるコミュニケーションについて研究。著書に『基礎から学ぶ介護シリーズ 利用者とうまくかかわるコミュニケーションの基本』(共著・中央法規)など多数。