難聴と認知症のかかわり
難聴が認知症の発症を招くメカニズム
難聴は認知症の危険因子の1つ
難聴になると認知症のリスクが高まる――そんな報告が、2015年に厚生労働省が策定した認知症施策推進総合戦略「新オレンジプラン」のなかで公表されました。加齢、遺伝性のもの、高血圧、糖尿病、喫煙、頭部外傷に並び、難聴も認知症の危険因子の1つとして明記されたのです。
では、なぜ難聴になると認知症リスクが高まるのでしょうか。最も大きな要因と考えられるのが、難聴によるコミュニケーション(会話)の減少です。言葉を聞き、理解し、発語することは複雑な仕組みのもとで行われています。聴覚情報は視覚情報よりはるかに複雑な神経回路を経て脳の中枢に達しているのです。
言葉を聞いてその意味を考えるなかで、楽しい、悲しいといった感情(情動)が生じます。その上で感じたことを脳内で言葉に置き換えて発し、コミュニケーションが成立しているのです。
しかし難聴になると、言葉のインプット、すなわち脳への刺激が減少。本能や情動、記憶、意欲などをつかさどる大脳辺縁系への働きかけも減ることとなり、社会生活をスムーズに送ることが難しくなったり、認知機能の低下につながったりすると考えられます。そのため、聴覚刺激が減ること自体、脳機能の低下に大きな影響を与えることにもなります。
耳と認知機能の結びつき
1 言葉(音楽・物音など)が聞こえる
【例】「今日はいい天気ですね」と話しかけられる。
→耳から情報が入る
2 耳から入ってくる言葉の意味を考える
【例】「天気=気候のことだな」
→思考する
3 言葉の意味を理解し、感情・情動が生まれる
【例】「本当だ、空が青くて、太陽が出ている。いい天気だ」
→理解する
【例】「気持ちがいいなぁ。外に散歩に行きたいなぁ」
→情動が湧き起こる
4 自分の考えや感じたことを言葉に置き換える
【例】「そうですね。今日は外に散歩に行くと気持ちよさそうですね」
→会話を組み立てる
5 言葉を発してコミュニケーションをとる
→発語する
本誌では、利⽤者が「もしかして難聴かも︖」と感じた時に介護者が⾏うべき2つのポイントも紹介しています。
慶應医師会会⻑。専⾨は⽿科学、聴覚医学、頭蓋底外科など。慶應義塾⼤学医学部卒業後、慶應義塾⼤学医学部⽿⿐咽喉科助⼿、ミシガン⼤学クレスギ聴覚研究所研究員等を経て現職。『ゼロから始める補聴器診療』(中外医学社)、『「よく聞こえない」ときの⽿の本2020年版』(朝⽇新聞出版)など多くの書籍監修に携わる。
⽂/森 ⿇⼦ イラスト/⼩野寺美恵