独自の音楽アクティビティのデイ
太鼓による「心身の活性化」と「身体機能向上」効果【1】
静かな住宅地の一画にある「デイサービス ルーチェ」。太鼓やユニークな道具を用いて行う音楽アクティビティをはじめ、工夫をこらした家事活動など、独自のプログラムで利用者の心身の活性化や身体機能の維持・向上を試みています。
太鼓を使った自己表現で不安を解消「ヘルスリズムス」で表情も豊かに
午後のひととき、「デイサービスルーチェ」では、利用者が太鼓を前に輪になって座っていました。音楽アクティビティ「ヘルスリズムス」の始まりです。ヘルスリズムスは、グループで太鼓を叩くことで心身を刺激する、アメリカ生まれの健康増進プログラムです。
施設長の山口江美さんのリードで演奏が始まると、利用者も慣れた手つきで太鼓を叩き、ひとしきり演奏すると、今度は山口さんが太鼓を叩きながら脳トレを兼ねた質問をします。たとえば、山口さんが「今月は、何月ですか?」と聞くと、全員が「ドン、ドン、ドン、ドン」と太鼓の打数で答えるという具合。その後も、「今日は何日ですか?」「七夕があるのは何月?」などの問いが続きます。さらに、1人ずつ指名し、自分やほかの利用者のフルネームや、都道府県名を言いながら叩くパターンも。
なかには間違える人や答えられない人もいますが、それで気まずい雰囲気になることはありません。利用者同士でヒントを出したり、ときには鋭く突っこんだりして、そのたびに笑いが起こります。
つぎに、山口さんが太鼓を叩きながら、計算問題を出し始めました。利用者は、太鼓の打数で答えを示します。問題はしだいに難しくなり、「10引く5引く2足す3は」といった複雑な計算も。速いリズムで出題されるので、頭をフル回転させる必要があります。ときおり、正解より1〜2個余計に叩く音が響き、それがまた笑いを誘います。
最後に、太鼓を叩きながら皆で「さくらさくら」や「ふるさと」などのゆったりした曲を歌ってクールダウン。その日のヘルスリズムスは終了となりました。
ヘルスリズムスは科学的な研究により、免疫力向上やストレスコントロールに役立つほか、心理面では、不安、緊張、抑うつ、無気力、混乱などを軽減させ、意欲や積極性の増強に効果があることがわかっています。山口さんは、「音楽を介護の現場に役立てたい」と小・中学校の音楽教師から介護職に転身。ヘルスリズムスをベースに、高齢者向きの脳トレなどを絡めた独自のプログラムを考案し、これまでさまざまな介護施設で実践してきました。
「このプログラムは徹底した『利用者さん参加型』です。利用者さん自ら演奏を楽しむことで血行が促され、また、脳が活性化します。紙に書くような脳トレは苦手な人も、演奏しながらだとスムーズにできることも。プログラムが進むと、皆さん、表情が豊かになってくるんですよ」と山口さん。確かに、この日の参加者も心から楽しんだようで、終了後は達成感を味わっているのが紅潮した笑顔から伝わってきました。
「睡眠薬を使っていた人が、薬なしで眠れるようになることもあります。プログラムを続けていると、要介護度が下がっていく人が多いんです」(山口さん)
「施設で行うすべての活動はアクティビティ」との考え方のもと運営。そのため、一般の住宅をあえてバリアフリーにせずに使用する。畑作りに協力してもらうなど、近隣住民との信頼関係も厚い。
文/松崎千佐登 写真/磯﨑威志(Focus & Graph Studio)