“理由を探る”レッスン
「BPSD」に惑わされない認知症ケア【1】
人によってまったく違う「BPSD」の現れ方
介護の現場では、認知症の利用者の様子を表現する時に、「徘徊」「介護拒否」「妄想」「帰宅願望」「不穏」「暴力」「失禁・弄便」「異食」といったBPSDの表現を使うことがあります。
BPSDとは、認知症の中核症状(記憶・見当識障害・実行機能障害・失認・失語・失行)によって起こる「行動・心理症状」のことです。中核症状は、原因となる疾患によっても差はありますが、認知症の人に共通して現れることの多い症状です。
しかし、BPSDは誰にでも現れるものでもなく、その現れ方も千差万別です。それなのに、私たちは、歩き回る利用者がいれば「徘徊」、入浴を嫌がる利用者を「入浴拒否」というひと言で表現してしまいがちです。
「BPSD」の表現が誤解や先入観を招く
例えば、施設のフロアを歩き回る利用者の様子を見て、ある介護者が「Aさんが徘徊していました」とミーティングで報告したとしましょう。
「徘徊」という言葉には「目的もなくうろうろと歩き回る」というニュアンスがあり、介護者自身もそのようにとらえがちです。その報告を聞いたほかのスタッフは、たとえAさんが「トイレを探して」あるいは「運動のつもりで」歩いていたとしても、そもそも目的がない行為という先入観でとらえてしまいます。
すると、「なぜ歩いていたのか?」と考えるより、どう対処するかに意識が向いてしまいがちです。BPSDとしてとらえることで、それ以上の推察をやめてしまう……そのことが、認知症の人の言動の理由を探りにくくさせてしまう原因になるのです。