利用者が自分だけの本を作るデイ
自由に綴る“美穂の家文庫”を始めて【2】
利用者の楽しみだけでなく、スタッフの喜びと成長につながって
美穂の家文庫を始めて数か月。現在、本に向かう時間は毎日10時30分から11時30分まで。それ以外にも利用者は好きなときに、壁から自分の本を取って書いているそうです。
「『何を書いていいのかわからない』という方もいます。そこで『明日の目標』『好きな食べ物』など、スタッフがホワイトボードに10個ほどのキーワードを記しています。それをもとに『目標は〇〇』などと書いている利用者様もいます」(田邉さん)
そして、田島社長はこう言います。「思ったことをサッと綴る方もいれば、書いては消して消しては書く方もいます。それは自分だけの特別な時間なのでしょう。真剣な表情に自分の本への愛着と書くことへの意欲と喜びが重なって見えます」
実際、本を綴っていた人に話を聞くと「面白い」という声が続出。「書くことがない」という人も、言葉とは裏腹に楽しげな様子です。その一方、手が不自由だったりして文字や絵が書けない人もいます。その場合はスタッフが聞き書きしています。例えば利用者に「明日の目標は」と聞いたときのこと。「困るねぇ……。今日の延長。お天気であるように。もう目の前が真っ暗。それじゃあだめでしょう?」と味わい深い一編の詩のような言葉が返ってきたそう。
「言葉や口調をそのまま書きとめているうち、その方なりの本になってきました。しかもお見せすると笑ってくれるんです」(田邉さん)
また本が会話のきっかけにもなっています。綴った思い出をもとに当時のことを語り始める利用者は多数。「好きな食べ物を書きませんか」と声をかけたら「秋田出身だからハタハタが好き」と教えてくれ、そこから郷土料理の話で盛り上がったとか。
美穂の家文庫がもたらしたのは利用者のイキイキした時間だけではありません。「スタッフの成長にもつながっています」と田島社長。
「達筆の方がいます。百人一首の句を書いた方も。『平凡なことの中に幸せがある』と記した利用者様もいました。この方はこんなに字がうまかったんだ。百人一首をすべて覚えているんだ。こんな人生訓を持っていたんだ。本の内容から利用者様の個性や生き方が如実に見えてきました。『すごい』と思いましたね。同時に『私たちはお話を伺っているようで伺いきれていなかった。ご本人を知っているつもりでいたけれど本当はよくわかっていなかった』と気がついた。それがきっかけで自分たちのあり方を見直し、今まで以上にお話をよく聞くようになりました」(田島社長)
また「お休みの日はさみしいです」とデイへの想いを綴った利用者も。「うれしくて、スタッフ全員で喜びました。そして、改めて自分の仕事に誇りを持ちました」(田島社長)