卓球に特化した機能訓練を行うデイ
卓球で意欲と身体機能を高める【2】
楽しさとリハビリ効果が両立する卓球の魅力
卓球を機能訓練に取り入れる効果とはどのようなものなのでしょうか。長渕さんは「まずは誰でもできて誰もが楽しめること」と説明します。その上で、「集中してプレーをすることで、喜んだり悔しい気持ちになったりして、イキイキとした感情が芽生える点もメリット。さらには、手先や指の運動機能や握力、動体視力、反射神経を鍛えることもできます」と話します。
その言葉通り、取材当日、長渕さんとある利用者のラリーで卓球の効果の一端が見られました。
始める前は卓球台に寄りかかりフラついていた利用者の姿勢が、テンポよくラリーを続けることで、徐々に自立し安定してきたのです。「打っている間に、みなさん、体幹が定まり、体の置きどころが掴めてくるんです」と石井さんは説明します。
実際、「ハッピー渋谷」では、利用者の身体機能が回復する例も多くあるそうです。ある60代の男性利用者は、週2回、約3ヶ月の卓球で、「要介護2」から「要支援2」に介護度が改善したといいます。今では、デイサービスの利用対象からは外れ、ボランティアとして施設を手伝うまでになりました。
「最初はラケットをしっかり持つこともできず、バンドで手に固定していました。しかし、そのうちきちんと握れるようになり、ラリーを続けるうちに足腰が安定して杖の必要もなくなったんです」と男性は微笑みます。
他にも、生まれつき右半身に拘縮が見られる80代の女性利用者が、練習を重ねたことで、左手でトスを上げ、そのまま左手でサーブを打てるようになった例も。現在、地区大会の障害者部門で上位の成績をあげているそうです。
卓球を取り入れる上で石井さんが一番留意している点は、「利用者のやりたいと思う気持ちを大切にすること」。利用者が自分から卓球をやってみたいと思わないと意味がないと話します。
「卓球に重きを置いてはいますが、こちらから無理には勧めません。やっていただく場合も、ゲームとして得点を数えたり、ラリーの回数の記録更新をもちかけたりして、楽しんでもらうことを第一に考えています」と石井さん。
今では、卓球デイという特性は地域に周知され、口コミをきっかけとして卓球目当てに通う利用者が増えているそうです。
また、男性利用者が特に多いのも「ハッピー渋谷」の特色です。
「卓球は高齢者でも男女を問わず、一度はやったことのあるスポーツです。体操やダンスはやりたくないという男性でも卓球には乗り気です。また、経験者じゃなくても始められるメリットもあります」と石井さんは説明します。