“理由を探る”レッスン
「BPSD」に惑わされない認知症ケア【2】
「BPSD」の表現が誤解や先入観を招く
ひと口に「徘徊」といっても、歩き回る時間帯や頻度、場所(室内か屋外か)、といった具体的な点は人によってさまざまです。ところが「徘徊」という言葉を耳にすると、自分が過去に体験したことがある「徘徊」の様子を重ね合わせて、状況を勝手に想像してしまいがちです。
今回の「徘徊」は、以前のものとまったく違う理由や様子かもしれないのに、自分のなかにある「徘徊」という「枠組み」にはめ込んでしまうわけです。このことも、理由を探るうえで大きな障害となってしまいます。
「客観的事実」で表現しよう
認知症の人の様子を伝えるうえで大切なのは、BPSDの表現だけに頼るのではなく、「客観的事実」を表現することです。
例えば、「徘徊していた」ではなく、「施設の廊下を壁伝いに歩いていた」と表現すれば、ほかのスタッフに「徘徊」という言葉の持つ先入観を抱かせることなく、「歩いていた」という事実が伝わり、そこから理由を探るための会話につながっていきます。
「歩いていた時間帯は?」「どんなふうに声をかけた?」「どんな返事がきた?」「その時の表情はどうだった?」と具体的な状況を共有することにもつながります。このように客観的事実を積み上げていくことは、理由を探る認知症ケアに欠かせないプロセスなのです。
監修/裵鎬洙(ペ・ホス)
介護福祉士、介護支援相談員、主任介護支援専門員。認知症ケアの観点を増やし、コミュニケーションセンスを磨く研修を提供している。研修オフィス・アプロクリエイト代表、介護老人保健施設名谷すみれ苑主任相談員、コミュニケーショントレーニングネットワーク講師を務める。著書に『“理由を探る”認知症ケア―関わり方が180度変わる本』(メディカル・パブリケーションズ、2014年)がある。
イラスト/尾代ゆうこ