高齢者虐待を知る【1】
日常のケアに潜む虐待
世界的に注目された高齢者虐待防止法
高齢者虐待は、常々社会問題となり、対策が求められてきましたが、その実態が調査され、予防を目指した法律「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(通称=高齢者虐待防止法)が作られたのは、近年のこと。2006年に施行されたこの法律は、国際的にも大きな注目を浴びました。
その理由は、高齢者虐待の防止に特化した法律が当時はまだアメリカの州法にしかなく、先進的な取り組みであり、「高齢者のみならず養護者への支援を重視」する特徴的なものだったからです。つまり、虐待した人を非難するのではなく、そうせざるをえなかった介護者の状況も慮(おもんぱか)り、介護者の負担を減らすにはどうしたらいいかという視点で作られた法律なのです。この法律の施行によって、全国の市町村や地域包括支援センターが窓口となり、虐待への対応や予防活動がスタートしました。
故意の虐待は論外であり、「私には関係ない」と思われる人も多いでしょう。でも、日常のケアに潜む「意図しない虐待」は、多くの介護者にとってまったく関係のない話ではありません。“意図しない”からこそ、発生を防ぐことも難しいのです。
監修/昭和大学保健医療学部看護学科老年看護学教授 小長谷百絵
千葉大学看護学部を卒業。東京医科歯科大学博士後期課程修了(看護学博士)後、現職とて要介護施設における不適切処遇などに関する研究を進める。主な著書は『在宅人工呼吸器ポケットマニュアル 暮らしと支援の実際』(共著、医歯薬出版)など。
文/河村武志・中澤仁美(ナレッジリング) イラスト/さいとうかこみ