“リハビリを超えるリハビリ”
ハンドベルでつながる一体感【1】
「楽しいから続けたい」。利用者のモチベーションが高まる、演奏の魅力
「みなさん、お元気ですか~?」
職員の菊池利香子さんが呼びかけると、「はーい」という返事とともに、色とりどりのハンドベルを握った利用者たちから、柔和な笑みがこぼれます。
「それでは、ベルの音を確認してみましょう。せーの」
菊池さんの合図で、透明感のある音が館内に響き渡りました。
ハンドベルは、17世紀ごろにイギリスで生まれた伝統楽器で、持ち手の部分を握って振ると、中の金属部が鐘に当たって音が鳴るシンプルな仕組み。1つのベルにつき音階は1つで、複数人で交互に打ち鳴らしながらメロディを奏でます。「たいせつの家」では、2004年の施設開設時から、デイサービスの利用者に親しまれてきました。
現在は、昼食後のレクリエーションとして月に1、2回、30人ほどが菊池さんの指揮で、約1時間ハンドベルの練習や通しの演奏を行います。
デイサービスのメニューに組み込まれていますが、参加は任意。それでも、昼食後にはほぼすべての利用者が自発的に席を動かし、練習が始まるのを楽しそうに待つ姿が。ハンドベルの活動がある日を楽しみにしている利用者も多いといいます。
「ハンドベルは音の鳴らし方がシンプルで誰でも簡単に始められる楽器。しかも、全員でタイミングよく音を鳴らしたり、手首のスナップを利かせて音の長短を調節したりと、テクニックが必要な奥深さもあるので、皆さんやりがいを持って演奏されています」(菊池さん)
利用者の多くは、楽器演奏に親しんだ経験の少ない世代。加えて、一般的にはあまり知られていない“ハンドベル”という楽器に対して、誰もがゼロからのスタートであることも興味を引きつける理由ではないかと言います。
1人が1つの音を担当するので、“自分が抜けるとみんなが困るよね”という気持ちが生まれ、それが継続するチカラにもなっていて、中には10年以上参加している利用者もいるとか。演奏中は“治療する、リハビリする”とは考えず、楽しんでもらうことを最優先にして取り組んでいるそうです。
自分も周囲も予想しない効果が
ハンドベルのレクリエーションは、利用者に“自分の新しい可能性に気づいてもらえる”大きな効果があると言います。
「一般的なリハビリやトレーニングは“体をこれ以上悪化させないこと”を目的に取り組まれる方が多いのですが、ハンドベルは、まるでアスリートがオリンピックの金メダルを目指して記録を伸ばしていくような、“自分の可能性を追求して広げていく前向きさ”を感じます。先日も、痛みで腕を肩から上に上げられないとおっしゃっていた利用者様が、演奏をしているうちに、腕を動かせる範囲が広がっていました。その方は、自分の変化にご自分でびっくりされて、涙を流していました」
また、いつも無口だった認知症の利用者が、演奏曲に合わせて突然ハミングを始めて、その場にいた人を驚かせたことも。
「こうした変化を見るたび、利用者様にはまだまだ可能性があるんだ、と感動を覚えます」