義歯と認知症
歯の状態が認知症につながるのはなぜ?
■考えられる理由1
咀嚼する能力が下がり栄養不良になった
歯がほとんどないにもかかわらず義歯を使っていない人は、ちょっとした歯ごたえのある食べ物が噛めない、あるいは噛むのがおっくうになり、軟らかい食べ物ばかりを口にしがちです。すると、認知症の予防に必要なビタミン類などが不足して、認知症の発症につながりやすいと考えられます。
■考えられる理由2
咀嚼する能力が下がり脳への刺激が弱くなった
咀嚼するという行為は、実は脳への刺激にもなっています。歯がほとんどないのに義歯を使わなければ、食べ物を咀嚼する力や回数が減り、脳への刺激も弱まることになります。すると、認知機能を担う海馬や扁桃体の活動性が下がり、認知症の発症につながる可能性が指摘されています。
■考えられる理由3
歯周病による慢性炎症が脳へ悪影響を及ぼした
歯周病は歯を支える歯周組織の慢性的な炎症で、歯を失う原因として最も大きなものです。歯周病の時に産生されるサイトカイン(特殊なタンパク質)や活性酸素(代謝の過程で生じる物質)が血流にのって脳へたどり着き、認知症の発症リスクを高める可能性が指摘されています。
以前から「歯のない人は認知症になることが多い」という報告はありましたが、それが科学的な研究で裏づけられたのは大きな成果です。歯を失った高齢者も自分に合った義歯を使い、適切なメンテナンスを続けていけば、認知症のリスクを遠ざけることができるのです。
介護職の日常的なケアの視点としても、利用者の歯の状態はどうか、義歯をちゃんと使えているか、認知症のことを念頭に置きながら観察していくようにしましょう。
山本龍生
岡山大学歯学部、岡山大学病院を経て現職。社会学的見地を踏まえて歯科医学・歯科医療を追究する社会歯科学が専門。日本口腔衛生学会評議員、日本歯科医療管理学会理事。主な著書に『歯科医療管理―医療の質と安全確保のために』(共著、医歯薬出版)などがある。
イラスト/竹口睦郁